おばあさん猫・ムニとヒトミと、ちょっとグーちゃん

今から18年前、東京からイタリアのトリノへ移り住んだ私と愛猫ム二とヒトミ。今では21歳を超えた二匹たちとの暮らしぶりや、老猫介護苦労話、新しくやって来たラブラドールのグーちゃんとの楽しくて切ない記録です。

ヒーちゃんがやってきた

ムニがいなくなってしまって、ヒトミはとても寂しそうだ。

1993年12月30日生まれの白黒猫ヒーちゃんことヒトミは、
去年の年末に21歳になったばかりのおばあちゃんだ。

ムニがわが家へ来て半年、可愛い盛りの子猫が
すっかり私に懐いてしまったのを見た当時の私の同居人は
「オレも、オレの猫が欲しいなあ」なんて言い出した。
私も、ムニちゃんの遊び相手がいたら可愛いだろうなあ、
遊べ遊べと言われなくなって楽だろうなあ、と思い
(その思惑は思いっきりはずれ、遊ベ遊べ攻撃は
単に2倍になるだけだったのだが…)
早速、当時働いていたMハウスという出版社の隣の本屋へ行って
猫の雑誌を手に取った。

ペットショップへ行って猫を買おうという感覚は私にはなく、
インターネットもなかった当時、雑誌の
「あげます」情報を探しに行ったというわけだ。

ページを開くとすぐに、
「白黒ちゃん」「めす」という文字が目に飛び込んできた。
私が心に描いていた条件にぴったりだった。
早速電話をかけると、今はまだ生まれたばかりなので、
2ヶ月頃に成長したら差し上げますので
取りにきてください、ということだった。

ところがそれから一ヶ月ほどした頃、猫の飼い主から電話がきて、
お母さん猫が病気で育児ができないので、
すぐに引き取りにきて欲しいと言う。
喜び勇んで出かけて行ったそのアパートの一室には、
畳と板の間のたった1センチほどの段差でコロン、
と転んだりしている毛糸玉みたいな子猫たちが
5-6匹うにょうにょ歩いていた。

「宮本さんは、この子ですね」と抱かされた白黒ちゃんの顔を見て、
私は愕然とした。だってとっても不細工だったのだ。
他の兄弟姉妹は、ムニに負けないぐらいカワイコちゃんばかりなのに、
なぜかその子だけ、目ばかりギョロッと大きくて、
鼻が潰れたような、変な顔だ。おまけに白黒の顔の、黒の割合が
大き過ぎて、まるで黒いヘルメットでもかぶっているみたい。

「あのー、他の子じゃダメですかね?」と恐る恐る聞くと
あら、宮本さんは白黒って言ったじゃないですか、
白黒はこの子だけですから、とけんもほろろに断られたので、
仕方なく、その子をもらって帰った。

その日はとても寒い日だったので、着ていたダッフルコートの
ポケットに入れてみたら、すっぽり入ってしまったほど、
その子はとても小さくて、頼りなげだった。

こうしてヒトミは私の家の子になった。

以来21年間、ずっとムニと一緒に暮らして
おばあさん猫になったヒトミは今、
隣にムニがいないことをじっと、噛み締めて、
なにか考えているように見える。

いつもなら、昼間はひなたぼっこしながら
能天気にお腹を上にして昼寝をしているのに、
ムニがいなくなってからは、そんなリラックススタイルは
とらずにじっと、寝床で座っている。

f:id:muni_hitomi:20150205034110j:plain

さよなら、ムニ。

日曜日、とてもいい天気で春めいていて
ムニが元気だったなら、ムニとヒトミと私とで
日差しの入る窓際に寝転がって本を読んだり昼寝をしたりする
そんな一日だったのに。
そんなしあわせがずっと続くと思っていたのに。

2月1日 日曜日 ムニを庭に埋めた。

金曜日の夜中に亡くなったのだから、
本当なら土曜日に埋めるべきだったのかもしれないけれど、
夫が長い時間家にいる日曜日でないと穴も掘れないし、

 


なにより、もう少しだけ一緒にいたかった。

「できたよ」と言って、掘り終わった穴を見せに夫が呼びにきた。
途端、押さえていた悲しみが、また大きく流れ出した。
冷たくても、動かなくても、
いつまでもここにいてくれたら、
そのままずっといけるような気がしていたのに。

 

「黒豆のように真っ黒くつやつやの大きな目で
いつも私を見つめていたムニが、
今、目を閉じたまま、そこにじっと横たわっている。

私よりもずっと背の高い本棚やクローゼットに
ひらりと飛び乗ったその足は、
今はもう固く突っ張って、立つことさえも二度とない。

 

年をとってからも驚くほど柔らかくてきれいだと
みんなに褒められたその身体と毛並みは、
今、冷たく固くなって、そこに横たわっている。

 

今日はいよいよあなたとお別れです。
庭の片隅に、あなたを埋めるのですって。
好きでよくかじっていた白いチューリップを
一緒に入れてあげようと思います。
でも、真っ暗で冷たい土の中は寒くないの、怖くないの。
ひとりぼっちで寂しくないの。

あなたは、その冷たくなった古い身体を捨てて
新しい身体を探しに行ったんだとみんなが言う。
でも私は、からっぽになったあなたのベッドを見ても、
どこか家の中を散策しているような気しかしない。


動かなくても返事をしなくてもいいから、
いつまでもここにいて欲しい。
でもそれは絶対にかなわない願い。


今日、あなたを土の下に埋めるのです。」

f:id:muni_hitomi:20150204033846j:plain

ムニの旅立ち

2015年1月31日1時15分

 

夕べ、今夜は一緒にベッドで寝ようと思い、

ベッドを汚さなよう新しいトイレシートを敷いたり、

ムニ用の湯たんぽを温めたりして準備をし、

ベッドに横たえてすぐ、

口がかすかにカチカチと何度か動いた。

そして、はふ、はふ、はふ、と

3回ぐらい大きく息をした。

 

それが最後の彼女の呼吸だったみたい。

しばらくして、え、まさか、と思って

鼻先に手をあててみても、お腹を触ってみても、

もう生きている証拠がなくなっていた。

 

昨日は夜、小さなイベントがあって、

その食事作りをしていて私はずっと忙しく立ち働いていた。

キッチンの私の側で、ムニはずっと眠っていた。

イベントが終わって帰ってきて、

そして私のベッドの中で逝ったムニ。

まるで私がちゃんと看取れるように待っていてくれたように。

 

考えてみると今日は2015年。

1993年の4月に生まれたムニが2015年の今日まで

生きていたなんて、ほんとうにすごいことだ。

こんなに長い間、ずっと私のそばにいてくれて、

時に孤独なイタリア暮らしを支えてくれて

ほんとうにありがとう。

また会えるその日まで、寂しくて悲しいけど、がんばるよ。

 

そんなことしちゃいけないのかもしれないけど、

気持ち悪いって言われるかもしれないけど、

少しずつ固く、冷たくなって行くムニを抱っこして

ベッドで朝まで一緒に眠った。

 

1月29日 

 

一日中寝ているだけになって、

もう鳴き声も出さない。

おしっこの量も減ってきたみたい。

お尻の周りがかぶれたみたいになっているから

オムツももうやめたのだけれど、

5時間も6時間も汚れていない。

 

もういよいよなのかな。

悲しくて悲しくて、

ムニへの想いがいっぱい溢れてくる。

ガラにもなく、詩のようなものまで。

 

「ムニや、雪が降ってきたよ。

こんな朝に出かけて行くのは

寒くないの。

 

ムニや。

あなたがもうすぐいなくなる。

胸が張り裂けるほど悲しいことなのに、

私は人間で、あなたは猫だから、

へへ、寿命だからね、と

笑っていなければいけないの。

 

明日の仕事は滞りなく出かけて行って

ちゃんとこなさなくちゃね。

たかが猫が死んだぐらい、とあなたの死を

貶められないようにしたいから。

 

ムニや、眠っている時間ばかりが日に日に長くなっていく

あなたの横顔を見て泣く私を、

サラが慰めてくれたよ。

ママ、ムニは幸せそうな顔をして眠っているよ。

やっと、こんなに重たくなった古い身体を捨てられるって。

そうして新しい猫になってママのところへ帰ってくるから、

ちゃんと気がつくように待っていないとね、って。

 

ムニや、ム二ちゃん、ムニやん、いろんな呼び方をしたね。

だけどやっぱりお別れは悲しいよ。」

 

 

よろしく頼むよグレース

体温が下がってきているムニが寒くないように、
寝床にしているカゴにムニを横たえ、
タオルでくるんだジェル状の湯たんぽを身体の下に入れ、
毛布をかけてあげているのだけれど、
夜中はそれでも寒いかもしれないと心配になる。


だから、キッチンの薪のストーブを寝る直前まで燃やしておいて、
そのそばにムニの寝床をおいてみた。ここなら家族がみんな
寝てしまって、薪を足す人がいなくなっても、
火が消えてからずいぶん温かさが続くから。

でもここだと、ムニが小さな声で私を呼んでも聞こえない。
具合が悪くなってもわからないし、
もしも、もしも、夜中に逝ってしまうようなことがあっても、
気がつくことができない。
そう思うと、なかなかベッドルームへ行くことができない。

一昨日は、未使用のトイレシートにくるんで
ベッドで一緒に寝てみたけれど、
落ち着かないのか嫌がって鳴いたのでやめた。
年をとって甘えん坊になってきて、
私と一緒に寝るのが大好きだったけど、
もっと老化が進んで足が悪くなって以来、
自分では降りられない高さにいるのが嫌なのか、
一緒に寝なくなった。

 

きっと明日の朝、また会える。まだ大丈夫だよね。
いや、やっぱり一緒に二階で寝ようかな、と
毎晩ストーブの前で葛藤が続く。
キッチンの隣の居間のソファを占領して寝ているグレースに、
よろしく頼むよ、と念押しして二階へ寝に行く私。

あまり頼りになりそうもない感じだけど↓

f:id:muni_hitomi:20150129181145j:plain

ムニがやって来た日のこと

f:id:muni_hitomi:20150127070521j:plain

ムニが私のところにやって来たのは、
1993年6月19日、雨の夜だった。

 

その頃、一緒に住んでいた彼の友達の家で子猫が生まれたと聞いて、
見せてもらいがてら飲みに行ったんだったと思う。
詳細はよく覚えていない。なにせ21年も前のことなんだから。

友達の家の居間のカーペットに座って飲みながら、
子猫たちを見せてもらっていた。
すると一匹の子猫があぐらをかいた彼の膝によじ登って
眠ってしまった。あまりの可愛さにふぬけになった私たちは、
迷わずその子猫をもらって帰ることにした。
子猫は何かに包まれていないと怖がるからと言って、
その家の奥さんが子猫を洗濯ネットに入れ、
それから空気穴をあけた靴箱に入れてくれたのを覚えている。

 

ところが翌朝になって、別の子猫と交換して欲しいという
電話があった。子供があの子だけはあげたくないと
泣いているからという。だったら情が移らないうちがいいと、
急いで猫交換に行った。そして「この子ならいい」なんて言って
家から出されちゃったのが、なにあろう、ムニなのである。

6月20日にわが家へやって来たから、
命名ムニマル(六二〇)子ちゃん。あ、女の子だからね。
当時、アニメの「ちびまる子ちゃん」が
始まったばかりで、日本中がピーヒャラぴーひゃら
歌っていた頃だった。

2015年1月25日 終わりの始まり

 

f:id:muni_hitomi:20150126051912j:plain

金曜日からまた、急に食欲がなくなってきた。

ボケ老人は、食べたことを忘れてしまって際限なく食べたがる、
なんて話を聞いたことがあるけれど、
つい何日か前はまさにそんな感じで驚くほど食べていたのに、
昨日から、好きな餌を入れたお茶碗を鼻の近くへ持って行っても、
ちょっと匂いをかいだだけで、ぷんと横を向いてしまう。


4月で22歳になる愛猫、ムニのことだ。


3歳の時に私と一緒にイタリアへ来て、
それ以来ずっとずっと一緒に暮らしてきた。
なんだ、猫か、と思う人もいるだろうけれど、
私の半生近くをともに過ごし、
私をずっと見ていてくれた大切なムニである。

11月に一度危篤状態になって覚悟もしていたのだけれど、
まさかの復活を遂げ、ここのところは
大きな声でうるさいぐらいに鳴いていた。
後ろ足が引き攣れていて歩くのは覚束ないし、
自分の寝床のカゴから降りることもできなくなっていたけれど、
お腹がすいた、水が飲みたい、おしっこが出たからきれにしろ、
抱っこしろ、とことあるごとに大きな声で私を呼んでいた。

それがまた、11月と同じ状態に陥ったと言っていいと思う。


でも今度は、もっと深刻なんだろう。
なぜって、前足までも動かなくなってきて、
自分の力で一瞬たりとも立っていることができなくなってしまったから。
今までは後ろ足がヨロヨロして転んでも、
前足で支えて座っていることはできていた。
ところが22日の日に、突然、前足もぐにゃっとまがって
力がなくなった。私が後ろから支えて助けても、
離せばすぐにコロン、と横たわってしまう。
あれ? と自分でも思ったのだろうか。
その翌日から食べる意欲をなくした、いや、食べるのを止めた、
そんなふうに見える。
そして前にも増して手足がとても冷たい。
可愛らしい三角の耳も、ヒンヤリしている。

何かにつけて私を呼ぶのは同じだが、声はとても小さくか細くて、
別の部屋にいたら聞こえないほどだ。だけど、
その小さな声を聞きつけて私が抱き上げると、
満足したように目をつぶってじっとしている。

ご飯は食べない。水を少し飲む。
こんなに小さく、軽くなってしまったムニに、
お願い、もう少し一緒にいてよ、と頼むのはもう、酷なんだろうか。

(文頭に貼った写真は元気だった数年前のもの。ベッドで一緒に寝て甘えるムニ)