ヒーちゃんの車酔い その2 というか、むしろその1
ヒトミが私に可愛がられているのを見ると
ヒトミをぶん殴ったりするムニだったけど、
私が介在しなければ姉妹のようにとても仲のいい二匹だった。
あれは日本から2匹を連れてイタリアへ来た日のことだ。
東京練馬区の実家から成田へ、トランクとムニとヒトミを
リムジンバスや成田エクスプレスで運ぶのはとても無理、ということで
友人に車で成田まで送ってもらった、その車中にて。
車が大好きなムニは、3日間の間に
私と暮らしていた三鷹のマンションを引き払い→
練馬区の実家へ2泊→
大荷物と共に成田空港へ、という異変にも動じず、
車内を飛び歩いたり、窓につかまって立ち上がって
外を眺めたりしている。でも車にめっぽう弱いヒトミは
後部座席の後ろの、えーと、あそこはなんと言うのかな、
いろんな人がティッシュの箱とかぬいぐるみなんかを置いているところ、
に登って、じっとうずくまって具合悪そうにしていた。
練馬区から成田方面へ向かう首都高新宿線は、カーブがけっこう多い。
しばらくカーブを通過した後、ヒトミが後ろで「ゲ、ゲッ」と
やっている声が聞こえてきた。
やばい、気持ち悪いんだヒーちゃん、と
思っても首都高では止まるわけにもいかないし、
私は助手席、ヒトミは後部座席のその後ろだ。
困ったなあ、と思っていると。
ヒトミのそばへ行って「ほら、元気出して」とでもいうように
ペロペロなめてあげていたムニが、
助手席の私のところへ飛んできて、ニャーニャーと言う。
なあに、ムニちゃん、なんて答えていると、更に大きな声で
私の目をじっと見てニャーニャーと言う。
そしてまた、ヒトミのところ→ペロペロ→私のところ→ニャーニャー
を何度も繰り返す。まるで
「ねえ、聞こえないの? ヒーちゃんが具合が悪いって
言ってるじゃないの、なんとかしてあげなさいよっ!」
とでも言うように。
え、やっぱりそうだよね、ムニ、ごめんごめん。
謝った私は、運転席の友達を急かしてサービスエリアに車を止めてもらい、
ヒトミを介抱した。といっても何ができたわけでもないのだけど、
汚れた口のまわりをきれいにしてあげたり、
背中をさすってあげたりなんかして。
そうして少し休憩した後、今度はカーブではできるだけ
Gがかからないように(?)運転してもらって、
成田空港に到着。
ヒトミも若かったからか、ムニの介抱のおかげか、
到着する頃には元気そうになっていた。
猫はクールでわがままで、なんてよく言うけれど、
仲間想いのこんな一面や、飼い主に思いを伝えようと
がんばったりする能力もあるんだな。
ムニの活躍をみてそんなふうに思った、
猫初心者だった頃の私。
そんなムニが21歳まで生きて、そして亡くなって、
はや1ヶ月が過ぎた。
最近ようやく、またお腹を出して
爆睡するようになったヒーちゃんを見て、
私は少し、安心している。