おばあさん猫・ムニとヒトミと、ちょっとグーちゃん

今から18年前、東京からイタリアのトリノへ移り住んだ私と愛猫ム二とヒトミ。今では21歳を超えた二匹たちとの暮らしぶりや、老猫介護苦労話、新しくやって来たラブラドールのグーちゃんとの楽しくて切ない記録です。

宿敵ネーヴェ

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ヒーちゃんの淡い初恋(?)が
ネーヴェの出現で切なく散った前々回。
三角関係 その2 - おばあさん猫・ムニとヒトミと、ちょっとグーちゃん


今回は、ヒーちゃんの恋敵(!)ネーヴェとは、
じゃあ、いったいどんなヤツだったのよ、というお話でございます。

真っ黒なのにネーヴェ(雪、という意味のイタリア語)という名前なのは、
赤ちゃん猫のとき、独身時代の夫に雪の中で拾われたからだとという。
ペルシャとノルウェージャンフォレストキャットの
ミックスだと夫はというが、
拾ったくせになぜ、そんなに詳しくわかるのよ、と
私はいつも心の中でつっこんでいる。ま、
ネーヴェのあのでっかいガタイとふさふさの黒い毛は、
そうなのかも、と信じさせてしまう説得力あるものだった。
私が出会った当時、7キロ。

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これはネーヴェじゃないけど、こんな感じ。

 

半外猫として育てられたネーヴェは、
身体のでかさに加えて喧嘩も強く、
近隣のボス猫(?)として君臨していたのである(私の想像)。

そんな猫と同居させられたのだから、
ムニとヒトミと、そして私もたまったものではなかった。

夫の女としてそれまで愛を一身に受けていたネーヴェは、
私の出現を快く思っていなかったのは言うまでもない。
当時すでに10歳ぐらいであったと思われる彼女は、
進んで私に攻撃をしかけてくることはなかったが、
基本猫好きの私が油断して撫でたりしようものなら、
バシッと猫パンチをおみまいする、バリバリっとひっかく、
がぶり、と噛み付くなどの技が日常的に炸裂した。
要するに私のことが嫌いだったのである。

しかし私の場合は、私の方から近づいていかなければ
被害を受けることはなかった。
そしてヒーちゃんも、彼女はもともと
ムニを家長とする「宮本猫一家」の「子分」だから、
ボス猫ネーヴェの意に介するところではない。

可哀想だったのはムニである。

宮本猫一家あ? 上等やないけ、とネーヴェが言ったかどうかは
わからないが、とにかく、同居の初日から
恐ろしい睨み合いが始まった。

深窓のマンション猫で喧嘩の経験は皆無なものの、
一応猫としてプライドだけはあるムニも負けてはいない。
家の中の細長い廊下ですれ違うたびに
「ふううううう」と唸り合い、睨み合い、
牽制しあう日々が続いた。

しかし、決着はある日あっさりついた。

私が仕事部屋で原稿を書いていると、
キッチンの方からふうううううう、という
声が聞こえてきた。
なんだか、いつもの声よりも半オクターブぐらい高い、
瀕死な感じのうなり声である。
むむ? これはいつもと状況が違いそう、
と見に行ってみると、こんな感じの二匹が。

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無言のまま、ずしーん、ずしーん、とムニに攻め寄るネーヴェ。
じりじりと追いつめられ、後ろは壁、もう後がない四面楚歌状態のムニ。

ムニの劣勢を一瞬で察した私は、スリッパを片方脱ぐと、
ネーヴェめがけて投げつけた。
パッとネーヴェが逃げて行ったすきに
ムニを抱き上げると、なんと、眉間にネーヴェの爪が
ささっているではないか。

猫を飼ったことがある人ならご存知の通り、
古くなった爪が割れたようになってはがれてとれることがある。
ネーヴェがムニの急所にパンチをお見舞いした時、
その割れかけの爪が眉間に刺さったまま取れたものと思われる。

ひどい! ネーヴェ。これがちょっとずれていたら
目をやられたりしていたかも!
そんなことになったら、私はネーヴェを許さない、
ついでにあんたも許さないからね、と怒る私を尻目に
「遊んでいただけだよねー、ネーヴェや」なんていって
夫はのんきに、ネーヴェを撫ぜている。
ネーベも、うにゃーん なんて可愛い声を出して
しっぽをパタン、パタンとやっている。

可哀想なのは喧嘩に負けたムニと、
その子分(?)ヒトミである。

その日から、私と夫と、ネーヴェが寝るベッドには
上がることができないという、不遇の年月が、
ネーヴェが天国へ行ってしまうまでの
6年間、続くことになったのである。

今、考えてみると、ムニとヒトミの人生に取って6年という
少なくない年月に、なんて犠牲を強いたんだろうと、
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ネーヴェと同居になったせいで、
それまでは、夜は私と、昼間は自分たちで好きな時に、
ベッドの上でゴロゴロしていたのに、
そこに近づくことさえできなくなってしまった。

おまけに、その2年後には娘が生まれ、
私は赤ちゃんが猫アレルギーになってはいけない、と恐れ、
猫の毛がつかないようにと心配するあまり
ムニとヒトミを抱っこしない日々がほぼ一年ぐらい
続いたのである。

ほんとに、ほんとに、ごめんね。

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