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おばあさん猫・ムニとヒトミと、ちょっとグーちゃん

今から18年前、東京からイタリアのトリノへ移り住んだ私と愛猫ム二とヒトミ。今では21歳を超えた二匹たちとの暮らしぶりや、老猫介護苦労話、新しくやって来たラブラドールのグーちゃんとの楽しくて切ない記録です。

誤飲の恐怖

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↑時期外れですが、2011年ウサギ年の年賀状用に準備したムニの写真。
ちょっとファンシー過ぎかな、と結局使わずじまい。

 

あれはムニがまだ、2歳になっていなかった頃のことだと思う。

ある夜、若干酔っぱらい加減で三鷹台のマンションに帰った。
むに〜、ひーちゃん〜、ただいま~とかなんとか言って
二匹の様子もろくに見ないでベッドに直行した。

でも、いつもなら私がベッドに入ると夜だろうが昼だろうが
すぐにやって来て一緒に寝るムニがいないことに気がついた。
変だなあ、と思って探してみると
暗くて寒い玄関にうずくまっている。

何してんの、ムニちゃん、と抱き上げてベッドへ連れて行った。
だけどしばらくすると、また玄関にうずくまりに行ってしまう。

変だなあ。その時、ふと、
猫は死ぬ時に人目につかないところへ行くという話を思い出した。
ムニは健康な若い猫だからそんなはずないんだけど、
抱き上げてよく観察してみると、
お腹のあたりがぴくぴくと痙攣している。

もしや、一昨日した予防注射の変な反応が起きているのでは??

心配になった私は、注射をしてくれた獣医さんに電話をした。
優しい獣医さんは夜の12時近くだったのに
嫌な顔一つせず(電話だけどね)、すぐに連れてきてくださいと言った。

「おや、体温が36度しかありませんね。
猫の平熱は38−39度ですよ、おかしいな。
でも血液は普通だし。ビタミン剤を打って様子を見ましょう」

ところが家に帰るとムニの痙攣はさらにひどくなって、
夜中の3時頃には両手両足がピーン! 
とつっぱったようになり、
痛かったんだろう、助けて、というように私の顔を見あげ、
泣き続けるムニを見てとても怖くなった。

それでもう一度獣医さんに連れて行くと
「体温34度ですね。これは死にかけているんです。
体温が上がるのは身体が病気と闘っている証拠ですが、
下がるというのは戦う力もないということです。
でも僕にはもう、これ以上のことは何もできません~」
と半べそをかく獣医。

夜中に電話しても嫌な顔はしないかわりに
能力もあまりない、親切なだけの人だったというわけだ。

「治療のできる、動物病院はないんですかっ!」と聞くと
「近くに24時間営業の救急動物病院が」と虫の鳴くような声で言う。
最初から言ってくれないあたり、親切でもなかったということになる。

急いでその救急動物病院に連れて行くと、
さっきまでの獣医さんとは打って変わって手慣れた対応。

「おそらく尿毒症でしょうね」とかいいながら
ムニのお腹の毛を刈ってエコーをしたり、
点滴を腕にブスリと刺したりと
テキパキ治療を始める辣腕獣医師。

そして「うーん、この低体温では
8割がたは死ぬと思ってください」とズバリ。
能力が高い人は冷徹なのであった。

このまま入院になりますので、お宅でお待ちください、
と言われ泣きながら家に帰ったのは、
もう空が白々と明ける頃だった。

ところがムニの生命力が強かったのか、
獣医師が優秀だったのか、はたまた
私の祈りが天に届いたのか、
3日後にお見舞いに行くと
ケージの中で立ち上がって
出せー、出せーと鳴きわめく元気なムニがいた。

ああ~よかった~とウルウルしていると
「ちょっと、こちらへお願いします」と
獣医さんに呼ばれて診察室へ。

そこには、レントゲン写真を見る時のための例の機械があって、
なにやら猫のひらきのような形をしたものの画像が
びろーんと映し出されていた。

そしてそのド真ん中にバーン、と1本、
ストロー状のものが見える。

「これ、なんでしょうね。心あたりありますか?」

先生に聞かれてうーん、と考えてみると、はっ!
これはもしや、この前代官山の雑貨屋さんで、
ヒーちゃんとお揃いで買ってあげたぬいぐるみのしっぽでは??

21年猫を飼い、仔犬のグレースも経験した今の私なら
絶対しないであろう、「人間用の、赤ちゃん用でさえもない、
普通のぬいぐるみを若い猫に買い与える」ことをした当時の私。
ボタンや小さい部品など、猫たちが飲み込んでしまったら
危険なものがついているから
ペット専用でないとだめ、ということを
その時の私は知らなかったのだろうか。

ぬいぐるみをもらった子猫時代の彼女たちは、
わーいわーい、と言ったかどうかは知らないが
よくそれで遊んでいた。クマちゃんをもらったヒトミは
日本から海を越えてイタリアまで持って来て、
21歳で亡くなる数ヶ月前まで大事に大事に遊んでいた。
どこかになくなったと思っても、
必ずどこかから「これで遊んでよ」と口にくわえて
持ってきたものだった。

そのぬいぐるみの、ムニにあげたネズミちゃんのしっぽが
数日前になくなっていたのだが、
それがまさか、ムニのお腹に入っていたとは!!


しっぽには直径3ミリ程、長さ5センチ程度の
プラスティックの管が芯に入っていたようで、
それがムニの食道部からおへそあたりまでを
ドーンとつらぬくようにまっすぐ入っているではないか。

そんなものが身体の中に入っているせいで
すべての身体の機能が低下し、
多機能不全状態になっていたそうだ。
もう少し元気がでたら内視鏡でとればいいと言う。

「じゃあ、死にそうになったのはこの管のせいなんですね?」
ほっと胸を撫で下ろしつつ質問すると、先生はこう答えた。

「そうですねえ、9割がたはそうだと思いますが、
他の原因も考えられなくもないです」

他の原因? というと??

「猫エイズとか猫白血病などでも、
あんなふうに劇的に肝機能他が低下する可能性も、
なきにしもあらずです」

普段は深窓のマンション猫のムニ、そしてヒトミだったが
時々、マンションの敷地内に遊びに行かせたりしていたから
そういう時に他の猫からもらった可能性も
なきにしもあらずだという。

というわけで、猫エイズなどの一連の検査を
してもらうことになった。ムニが猫エイズの
可能性があるならヒトミにもうつっているかもしれない。
ということで、ヒトミも検査。

いろいろ検査をしていると、多少は悪いところが見つかるもので
はい、お薬、はい、お注射と、私は言われるままに
ムニとヒトミと、そして財布を差し出し続けた。
幸いなことに、二匹とも猫エイズも猫白血病も陰性だった。

そして3ヶ月ほどたったある日のこと。
お金がさっぱりないことに気がついた。
とってあった領収書を計算してみると、
動物病院に支払った総額はなんと、
70万円を超えていた。

当時、フリーのライターとして結構稼ぎがあった私は
フリーゆえ、月々の収入の金額は決まっていなかった。
だから、もともとだらしない性格も相まって、
自分がいったいいくらお金を持っていて
いくら使っているのかが正確に把握できていなかった。
それを見抜かれたのかどうかはわからないが、
こういう状態を「カモにされた」というのかもしれないと
気づいたものの、後の祭りとはまさにこのことだった。

数日後、腕はいいけど良心的という獣医さんを
紹介してもらってムニを連れて行った。
すっかり元気を取り戻し健康そのものの
ムニをなでながら先生は言った。

「お気の毒様だったんだと思います」

先生、やっぱり私、カモられていたんですね?
そう聞きたい気持ちをグッと抑え、
私も無言でムニを撫でるのであった。

 

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 ↑20年前のこの写真は、おそらく私があざとく、ヒーちゃんに抱っこさせて撮ったものだと思うけど、とにかくヒーちゃんはこのぬいぐるみをずっとずっと大事にしてくれていた。なのにヒーちゃんの人生の最後の半年ぐらいで、グレースにかじられて遊べなくなってしまったのであった。