おばあさん猫・ムニとヒトミと、ちょっとグーちゃん

今から18年前、東京からイタリアのトリノへ移り住んだ私と愛猫ム二とヒトミ。今では21歳を超えた二匹たちとの暮らしぶりや、老猫介護苦労話、新しくやって来たラブラドールのグーちゃんとの楽しくて切ない記録です。

となりのグラ

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お隣さんは、猫を二匹飼っている。
グレーと白のツートンカラーで、いつもニャーニャーと
ご飯をねだりにやってくる元気なコと、
ご飯はねだるものの、私が近づくと
ビクビクッと飛び退ったりする白黒のコ。

飼っているといっても、外猫として
ご飯を庭先においてあげている程度のようで、
自称飼い主が名前はない、というので
白グレ-をグリ、白黒をグラと呼ぶことにした。
白グレ-ちゃんのことを、
グリッジョ(イタリア語でグレ-)だからグリ、と
自称飼い主が言ったことがあったからだ。

先週の金曜日の夜、テラスに起きっぱなしにしてある
グレース用(になってしまった)ソファに
その白黒ちゃん、グラが座っていた。
テラスはお隣の家と反対側の位置にあるので
2匹は今までこのテラスにまで来たことがなかったのに、
その日は私を見上げてニャーニャー、
ニャーニャー言っていた。

そしてとても臭かった。
汚れた匂いじゃなく、何かが腐ったような匂い。

いやな感じがしたけれど、
うちには猫のニーニもラブラドールのグレースもいるから、
家の中に入れていあげるわけにはいかない。
寒くなるのが遅れ気味だった今年の秋も、
あの日あたりから急激に気温が下がり始めていたから、
とりあえず古い布を毛布代わりにかけてあげて
その夜はそのまま寝た。

翌朝起きてみると、まだそこにいた。
これは絶対、へん。自称飼い主は不在。

ご飯をあげてみようと近づいて見ると、
お尻の近くにテニスボール大の傷がある。
その傷が膿んで腐って臭いんだ。
前はまるまる太っていた彼女の背骨が
ゴツゴツ触れるぐらい痩せてしまっている。
目やになんかもついたままだし、
ニーニお気に入りのカリカリも猫缶も、
まったく食べようとしない。
これは、かなり具合が悪そうだ。

それでも私のそばをニャーニャー言いながら歩きまわる。
振り向いてはニャー、振り返ってはニャー。
近くに行くと、ゴロゴロ言っているのが聞こえる。

食べようとしないということは、
ご飯をちょうだい、ではない。
だったら何を訴えているんだろう?
具合が悪いから助けてちょうだいなのかな、と思うのは
擬人化し過ぎだろうか??

私は仲好しの獣医さんに電話をしてみた。
獣医なんだから当然だが、動物大好きな彼女は、
ちゃんと世話をしない飼い主に腹をたて、
彼の許可なんか待たずに抗生物質を飲ませちゃえと言った。
残念ながらその日、動物病院は休診日。

救急に連れて行くという手もあったが、
飼い主でもない私がそこまで、という躊躇があった。

恐る恐るグラの口をこじ開け、
うちに残っていた猫用抗生物質を放り込むと
あっさり飲み込んでくれた。
そうか、このコはおとなしい、いいコなんだ。
きっとおとなし過ぎて、他の強い野良たちにやれたのではないか。
そういえば、片方の耳はほとんどなくなっているし、
もう片方の耳も穴があいている。

夕方ペットショップへ走り、ムニが体力を落とした時に
食べさせていた、ヒルズのA/Dという高栄養食缶詰を
買ってみたけど、それも食べない。

日曜日は姿をみかけなかったので、
少しよくなったんだろうか? と思っていると
月曜日、また私のところへやってきて、
ニャーニャー言う。

ご飯も水もまったく口にしないままだ。
金曜日からずっとそうだとすると
かなりやばい状態なのではないか。

自称飼い主は、もうこんなになったら
きっと助からない、などと言いながら出かけてしまった。
自然の摂理だからしかたないのかもしれないけれど、
ご飯をあげたりして甘やかすときだけ甘やかし
死にそうになったら弱肉強食だなんていうのは
違うんじゃないか。

そう思った私は、よけいなおせっかいは百も承知で
グラを獣医さんに連れて行った。

診察してくれた獣医さんは
「かなりひどいですね」と暗い声で言った。
2週間効果が持続するという抗生物質を注射した後、
「水曜日まで食べなかったら、たぶんダメ」。
あと2日の命かもしれないということか。

家へ帰って、外よりずいぶん暖かい地下の倉庫に寝床を作り、
そこに置くとじっと座っているグラ。水も、ご飯も、牛乳も、
やっぱりまったく口にしない。

そして火曜日の朝、姿が消えていた。
その時からずっといない。今日はもう金曜日。

最後に地下倉庫に見に行った月曜日の夜、
臭い匂いがしなくなっていたので、
抗生物質が効いて化膿が止まリ、体調がよくなったの?
飼い主の庭に戻って体力回復を図っているのかな? 
と少し期待したけれど、
聞いてみるともう、何日も姿を見かけないという。

どこかへ死にに行ったんだろう。
しかたないね。肩をすくめて彼は言った。
白グレ−がひとりぼっちになっちゃったから、
もう一匹飼ってあげようかな、と笑いながら
出かけて行った。

彼にとってはその程度の命。
いなくなったらまた、補充すればいい。

だけどあのコは最後まで頑張って生きていた。
身体がつらくて、となりのあの人間を頼ったら
なんとかなるかと考えてやって来てくれた。
それなのに助けてあげられなくてごめん。
そう思ったとたん、去年の夏、ひとりぼっちで死なせてしまった
ヒーちゃんのことを思い出して、鼻の奥がツーンとした。

今夜は雨。冬の到来を告げる冷たい雨が降っている。
あのコはどこで眠っているんだろう。
でもきっと、もう寒くないし、お腹もすいてない。
キミをいじめる誰かももういない。
安心して眠りなさいね。

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